「AIと文脈(コンテクスト)」
今や、AIの話題を見ない日がないほどです。それは一時のブームを超え、かつての「石油時代」や「車社会」のように、私たちの生活や社会になくてはならない社会インフラになろうとしています。
そうした中で、「AI vs 人間」という構図で「AIに仕事を奪われる」と煽られたり、「人にできてAIにできないことは何か?」といった議論が多くなっています。多くの人が、技術やスキル的な仕事の多くがAIに代替されていくのを実感しているからでしょう。
実際、正解のある問いに対して、答えに辿り着くスピードや正確さ、作業量において、AIは人間を圧倒しています。
「問いに対する答え」はAI、「問いを立てる」のは人間
だからこそ、正解がない・わからない、あるいは無数に存在する「答え」に対処できるのは「人にこそできる領域」です。
それは、「意志」を持つこと。少し言い換えるなら、「パーパス(存在意義・目的・価値観・ありたい姿)」を掲げることです。
当たり前ですが、AIが自発的にパーパスを掲げることはできません。
AIは「問いに対する答え」に正確かつ迅速に辿り着くことはできても、「自ら問いを立てる」ことはできません。
仮説を検証する知識はあっても、仮説を立てる知恵はまだありません。
現在、知識労働者の代表格である「コンサルティング」は就職活動などでも人気の職種です。
しかし、その業務プロセスを分解してみるとどうでしょうか。
- アジェンダの設定(テーマや問いを決める)
- 仮説構築(問題や課題に対する仮説・方向性を決める)
- 情報収集
- 情報の分析・統合
- 情報の出力(文書、プレゼン、報告書へのまとめ)
このうち、③〜⑤の作業は、今後確実にAIが圧倒的な正確さとスピードでこなすようになります。これからの時代、従来のコンサルティング業務の多くは人が行う必要がなくなっていくでしょう。
一方で、②の仮説構築は現在の技術では難しく、①のアジェンダ設定に至ってはAIには不可能です。なぜなら、そこには「その人個人の意志や価値観、ありたい姿」が含まれるからです。
人は気が変わりますが、AIは気が変わりません。というよりも、AIには「気」そのものが存在しないのです。
「気」が生み出す感性(センス)の力
この「気」とは何でしょうか。 気持ち、気づき、気概、気分、気風、気合、空気、人気……。
一言で言えば「感性(センス)」です。 この感度の高さこそが人生を豊かにし、事業の成功確率や差別化を高めていくのだと感じています。
ちなみに、センスは単に知識や技術(スキル)を詰め込めば身につくものではありません。
知識の詰め込みや修練は、打席に立ってバットを振り続けるようなものであり、それは確実に「技術」としては上達します。しかし、それがそのまま「感性(センス)」に直結するわけではありません。
例えば、誰かにモテたくて教本を熟読し、マニュアル通りの作法を真似したからといって、モテるわけではない(むしろ逆効果になるかも💦)のと同じです。
職場で人気のある人も同じです。必ずしも「仕事ができる人」だけが好かれるわけではありません。そもそも「仕事ができる」の定義自体、多様化しています。
マネジメントの定説も変わり続けています。
- 「仕事を任せてくれる」=良い上司/「仕事を丸投げする」=悪い上司
- 「柔軟に方針を変えてくれる」「ビジョンが明確でブレない」=良い上司
「コロコロ方針が変わる」「独りよがりで頑固」=悪い上司
委任と丸投げ、、、行っている「行為」そのものは紙一重です。では何が違うのかといえば、受け手(部下)の捉え方であり、上司と部下の「関係性の質」です。 愛情とハラスメントの関係も同様で、信頼関係がある人からの言葉は愛情と受け取られ、信頼関係がない人からであればハラスメントになり得ます。
言葉や行為が同じでも、そこにある「文脈(コンテキスト)」が違うのです。 そして、この文脈の肝になるのが「気」であり、これこそがAIには絶対に持ちえない領域です。
「スペック」「コンテンツ」の先にある「コンテクスト」の時代へ
私たちのビジネスの歴史を振り返ると、時代の変化とともに価値の源泉が変わってきました。
- モノ不足の時代:売り手主導の「売り方の技術」
- モノが充足した時代:広告やブランディングといった「マーケティング」
- IT普及の時代:情報主権が消費者へ移動。販売代理から「購買代理」へ
かつては「代理店」といえば「販売代理店」「広告代理店」「旅行代理店」、、大概「売り手側」の代理業務が有効だったことからその類の業態が出てきたのだと思います
しかし、今後AIが普及すると、AIが「個人の執事」のように「購買代理店」(しかも無償か安価で)として機能し消費者の購買判断をサポートするようになります。
消費者は、より強い購買の主導権を持つようになるでしょう。
そうなると、商品の性能やスペック(必要条件)だけで選ばれることはなくなります。
「性質」や「性能」の良し悪しの判断をAIがサポートしてくれるからこそ最後の決め手(十分条件)となるのは、その奥に秘められた売り手の「誠実さ」「性格」「企業の姿勢」「価値観」「世界観」「倫理観」になります。
論理的な良し悪しではなく、感覚的な「好きか嫌いか」「共感できるか」で選ばれる時代になるのです。
ホテル業界、結婚式場、レストラン業界でも、長らく「スペック競合(立地の良さ、施設の豪華さ・新しさ)」が繰り広げられてきました。 私たち「セトレ」は、そうした「スペックの比較競争」から脱し、地産地消やオールインクルーシブといった「コンテンツ(中身・体験)」への移行を進めてきました。
しかし、これからはさらにその先、「コンテクスト(文脈)」の時代に入ります。 「なぜそれをやっているのか?」「その取り組みの真の意味は何か?」「そこにフィロソフィー、哲学はあるのか?」という、私たちの誠実性や倫理観に根ざした価値観や姿勢への「共感・共鳴」こそが、お客様に選ばれる本質的な理由になります。
スキルのデフレ(価値減少)、センスのインフレ(希少価値)
技術やスキルは、これからも着実にAIへ代替されていきます。 だからこそ、これからの時代に価値を持つのは「人間らしさ」であり、「関係性の質」であり、「気(が合うかどうか)」を捉えるセンスです。
これから起こるのは、「スキルのデフレ(価値の減少)」と「センスのインフレ(希少価値の上昇)」です。
AI時代だからこそ、文脈(コンテクスト)を汲み取り、豊かな感性(センス)を持って人とつながることができる人や組織が、圧倒的な価値を持つようになります。
私たちホロニックも、自分たちの「気」や「意志」を大切にし、豊かな文脈を紡いでいける存在であり続けたいと考えています。