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マンスリーレポート

2007年05月

「ホテルの価値」

 

私たちホテルオペレーション会社には2 人(2 タイプ)の顧客がいると言われています。
一人は、言わずと知れた一般にホテルをご利用頂くお客様、
もう一人は、いわゆるオーナー、ホテルの所有者や投資家です。
私たちの最大の役割はこの2つのタイプの顧客に満足を提供することです。
しかしながらこの2 つのタイプの顧客が私たちに求めてくるニーズは同じではありません。
前者の顧客は、自分たちに至福の時間や空間を与えてもらうことが価値であり、私たちにそれを求めてき
ます。
現場のメンバーはお客様から託されたニーズを満たすためにありとあらゆるおもてなしやサービスを編み
出しそれを提供していきます。
お客様が求めるおもてなしは、その方々それぞれのTPO(時と場所と場面)、またはその日の気分やコン
ディションなどでも微妙に変化するのでニーズはバラバラです。
ゆえに高い接客対応能力が求められます。
逆に後者の顧客のニーズは極めて明確で、いわゆるそれは「収益」です。以上です!
それ以上の要求も、それ以下の妥協もありません。
私たちから支払われる家賃や収益から還元される収入の多さが価値であり、それを私たちに求めてきま
す。
従って、私たちはこの2 人の顧客のニーズを同時に満たすためには
「お客様にお越しいただき、おもてなしを駆使して満足頂き、そこからたくさんの収入を得る」
そんな活動が必要となります。
「満足感」と「収入」というと相反するように考える人もいます。
満足を得るためにはたくさんのサービス、例えば料理の原価率を高めたり、値引きをしたり、過剰な接客
などなど・・
一方、収入を得るためには、たくさん回転させる、どんどん売り込む、詰め込むなどなど・・
この矛盾(に見える)の展開をいかに繋げてモノを捉えていけるかが「優秀なオペレーション会社か否か」
の境目になることは間違いありません。
果たしてお客様を満足させるためには値引きとか過剰サービスとかといった「何かを付けて差し上げる」こ
とだけなのであろうか
収入を増やすためには、ガンガンやるだけしか方法がないのだろうか
ココのところが大変重要なところだと思います。
ある高級ホテルではドアマンやベルボーイが存在していて、いついらっしゃるか分からないお客様の顔や
名前を覚えておく必要があり、そのような類なことが至上のサービスだと言われています。
ではビジネスホテルでは、そのサービスをしないからといって劣悪なサービスと思うでしょうか?
お客様の層も違えばニーズも違う、お客様から見ればホテルに対する期待値も違えば、その対価の額も
違う訳です。
つまり、この両者が同じ「尺度」でサービスを捉える必要は無いということです。
同じ「ホテル業」と称していますがそれは全く土俵が違うということです。
また、百貨店はかつて「全てのものが揃っている文字通り“百貨”」であることに価値があった時代がありま
した。
それがいつしか、電化製品だけに特化した家電量販店、紳士服だけに特化した紳士服専門店、日用品
を扱ったスーパーという業態、その中から更に食品だけに特化した食品スーパー、セレクトだけした商材
に特化した店、100 円均一といった業態、開店時間をフレキスブルに対応したコンビニなど、デパートとい
う業態からどんどん分離してきて今や「違う業態」として世の中に君臨しています。
それは市場の変化、消費者の嗜好、時代の移り変わりに合わせて「現在」に至っているのです。
が、そのような時代の見方をすればホテル業はどうもまだそのような認識(変化対応)が一般的には広がっ
ていないようです。
それはなぜかということは別にして、少なくても一般の消費者、お客様を相手にしている、言い換えれば
「時代の流れに最も敏感な人々」を相手にしているホテル業界においては今後もはや再編されていくこと
は間違いないだろうと私は予測しています。
外資系ホテルが日本、特に東京では活況で業界を賑わせています。
彼らの威力は一体何なのだろうかと考えます。
私は行き着くところ冒頭にある2 人の顧客をしっかり満たす「仕組み」があるのだと思います。
それこそが正にノウハウなのだと思います。
ノウハウは実は「人=個人」に依存しません。
依存するのであれば、成功している外資系ホテルのGMが数年ですぐスイッチしてしまう現象など起こる
はずもありません。
ホロニック社が標榜している「コミュニティホテル」という領域はこれまでまともに定義されたものを私は
目にしたことがありません。
「ビジネスホテルの進化版」か「中級シティホテル」などといったしっくりこない表現で、結局「都市型ホテル
を真似た小型版」の領域を脱していません。
私たちが「何をやるか」、「なぜやるか」、「誰を相手にするのか」、また「何をやらないのか」を明確にし
ていけば、独自にポジションが見えてくるのだと思います。
まさにそれが「コンセプト」です。
「自社のポジション=コンセプト」がはっきりしてくれば自ずとそのブランドイメージが確立されるはずです。
ブランドイメージが出てくると、お客様にはもちろん、ホテルを買おうとしているオーナーや投資家にも私た
ちの価値を伝えやすくなります
ホテルの価値というのはそんなところから評価されてくるのではないかと思うのです。
全く別の業界の話になりますが、車のホンダは商品開発をする際に80%の時間と労力を「コンセプトづく
り」に費やすそうです。
まさに「何を」「誰に」「なぜ」を経営陣から技術者、現場までそろって「ワイワイガヤガヤ」やって商品を導
き出していくそうです。
ホテルも一昔前、開発段階でほぼ成功か否かが決定すると言われていました。
ホテルがつくられる時には、優秀なマーケッターが市場分析をして、コンサルタントが収支予測や事業計
画を作成するサポートをし、それに対して金融機関のプロが精査する、そんな強者ばかりが集まってホテ
ルをつくって成功しているホテルは僅かです。
なぜか?
そこに「想い」がないからです
少し極端な表現になりましたが、開発段階で、「何を」「なぜ」「誰に」をコト細かく議論されていない、つまり
コンセプトや思想を掲げてそれを引導していくリーダーシップのある人がいなかった。
そこでお金を使っていただくお客様の立場に立って施設をつくっていないということです。
都市再開発の一貫としてホテルがあった方がイメージが良い・・などはっきり言って安易です。
だから失敗する、そんなケースばかりです。
それが、私が各地の再生案件でお話を伺う場合の共通しているポイントです。
ホテルの価値は「コンセプト」で決まるといっても過言ではありません。
もちろん「コンセプト」だけが立派ではいけません。
その「コンセプト」が実際に汗を流す現場のメンバーが共感されて、それに沿ってしっかり運営がされてい
て始めて「価値」が表面化されます。
再生案件のお話を伺った時、
「現場メンバーは頑張っているのにうまくいっていない」
「本来感じによさそうなのにやる気がなさそうなスタッフが多い」
そんなケースを目や耳にすることが多いですが、この原因は「コンセプト不充分」、つまり「スタートからお
かしい」ことが大半です。
ゴールが西なのになぜか東に一生懸命走っているようなものです。
懸命に頑張っているのに結果が出ない典型パターンです。
それだけ「コンセプト」は重要です。
しかし、それがあやふやなまま開発され、運営されているホテルにも望みはあります。
それは・・・
もう一度「コンセプト」を修正することです。
「何を」「なぜ」「誰に」を明確に出来たら再生出来る可能性は高まります。
そしてこれをしっかり抑えたら私たちにとっての2タイプの顧客、いわゆるお客さまとオーナーの両者に高い
ベネフィット(利益)を与えることが出来るのだと確信しています。
私たちのこれからの大きなテーマは冒頭の2タイプの顧客、言い換えれば2タイプにニーズに対応できる
オペレーション力です。
それが実現出来て始めて「プロの運営会社」もしくは「プロのホテリエ」と言えるのだと思います。
どちらかが欠けてもなりません! “プロ”になるためには!
21世紀は「プロフェッショナル」の時代です
自分の業界で「これから何が起こるか」の未来を予測し
自分の会社で「これから何を目指すのか」のビジョンを描き
自分の部署で「これから何を為すべきか」のコンセプトを語る
このようなことを経営者、経営陣だけでなくミドル層からスタッフに至るまで志向していけるようなチームこ
そが強い組織になるのだと確信しています。
 
長田一郎